20171031

インスピレーション

ふたつの詩を書いた。
それから、かっこいい音楽に出会った。私の欲動の源泉はひとつは「洗練された即興」ともうひとつは「熱情を帯びた原則」であるらしい。ピナ・バウシュのダンスも、ビル・エヴァンスのセッションも、インスピレーションそのものだ。私は理解不能な現象があらゆる芸術的衝動の前提であることを知っている。崇高であれ、美であれ、法則で満ちたこの世にあって、それらを会得できないという事実が芸術へと駆り立てる。

充ち溢れた生の欲求、即ち「生きなければならない」にとって、人間の血管は細すぎる!

なるほど、それだから時に刺激的な作品に出逢うなどして、生きるのがつらいと思うのだ。

20171027

帰り途

あたまあたまあたまあたま
あたまあたまあたまあたま
あたまあたまあたまあたま

あたまあたまあたまあたま
あたまあたまあたまあたま
あたまあたまあたまあたま

あたまあたまあたまあたま
あたまあたまあたまあたま
あたまあたまあたまあたま

あたまあたまあたまあたま
仔猫のチィさな泣き声だ
......

20171026

364000

364000字が足跡つける
雪道を往く

灯りの数も狐の声も
時の降るのに任せて戯れる
クリスマスの約束
土塊のにおいも忘れて

364000字が足跡つける
雪道を往く

果てのない轍とまぶしい朝ぼらけ
光の海で足だけが動く
帰還の途はないと知ったら
その足を止めたでしょうか

幾千万の夢を露にみて
想う涙の明かす夜
弦楽の響は無常のそれ

364000字が足跡つける
雪道を往く
あしたは秋の花が咲く





20171025

秋の朝

これはまあ おだやかに
風がいつもどおりに吹いている
あの林檎はなぜ落ちないのだろう
いつかは分かる やさしい心根

おどりする点の上
線がさりげなく右へ延びる
秋空の下の猫
家々のあいだを無限に歩く

これはまあ おだやかに
台風が去ったあとの新たな鶏鳴
あの林檎はなぜ落ちないのだろう
わたしはふかく あくびする



20171021

白い骨

空気は無色のまま
血管は静かでいる
ひとみの風景はさらさらと
少女は恐竜のおもちゃで遊んでいる

夢のなかを抜ける雲がある
無垢な心に肖た何かがある
ひかりはちいさい目を輝かせ
透明な水のなかを泳いでゆく

ハープの音色とたわむれる
泪がおちて鳥は飛ぶ
花の記憶が白いとき

血管が静かでいるとき
彼女の描いた生き物のそばに
白い花は揺れながら咲く


20171020

恐るべき雨

白い北風が平野に降りる
秋の空は 寂しい和紙のようだ
男の子のこする蒼ざめた腕を
夏の脱け殻はよく知る

答えを知っていて 笑ったよ
吐き気を抑えて 笑ったよ
心は赤々と晴れて
透き通った裸の転倒

たえざる雨は 鋼鉄を打つ
嘘の錆びたにおい
挫かれたいくつものパイプ
無邪気な瞳は雨宿りする

縮こまった白い吐息
禍いの為に失われた星
……
地下は滴の音だけが聞こえている


20171019

煉獄の四六時

ながい ふるい髪が風になびくのを
時計はくるりくるりと ビルの上から見ている
太陽が近すぎて燃えいづる絵の具を
息を殺して若者は必死に消そうと試みる

窓辺は大きく口を開け
ポスターや社会人の演説を真似する
餌に食らいつく鳩どもには
彼らは地の約束を与えてやった

明るい朝の話を私に聞かせておくれ
日の照る内臓へ落ちた羽根のことを
死より先に覚醒してしまったことを

私たちを送り出す子供の歌声や
連隊の背中や胞子の目玉のことを
朝陽が射して破れた断片のつむぐ
沙汰なき生死の行方を聞かせておくれ





20171018

夜の底

秋の夜長の声とよみ
睡夢久しく ぼんやりと
角なる柱状 月よ何処

清らかなりし倒月(さかづき)の
飽きぬ心も つかのまに
残り少なの 年の尽き

下垂る黄花の
盛り越えて 曙を待つ
かげもとの焰

今夜は深き水底の
空唯だ黒く 揺れている





20171017

静かな夜

壁も床も眠っている
今夜は雨がやんだ
見渡せば点々と客が
私と同じく座っている

懇意の喫茶店も暗くなる
今夜は雨もやんだ
道路を走る車の水が
浅い寝息を立てる

これで終わりのお手紙だ
室内楽の良き音色も聞こえる
おやすみするよと
冷たい夜を潜って寝に就く

あゝ そこに私は居ませんでした
鏡の前で不図して思う

20171016

芸術家

一般に中学校までは経験の範囲は狭く、外面的な個性がそれとして認められる。高校になると似たような人間が散見され、個性は次第に埋没する。私が高校生になると、あらゆる行動の根底に芸術の意識があったように思う。広く勉強することは、広く映画を見ることは、広く音楽を聴くことは、私の目指す芸術の為になることだとかいって感受性を高めていった。それは大学の半期まで続き、身辺の煩雑さや多様さに抗う形でミニマムへの志向が強くなるもいつしかその期待は薄れ、相反する志向性が私を悩ませて今に至る。これらすべての経過は動機の失われた振り子と同じ振る舞いであると思えば、いづれ落ち着くところがある。そして私は今や、芸術の意識があるだけで筆を持たない画家さながらだ。

ところで私は思うのであるが、そして芸術家は独特であるという前提で話をするが、社会の中でみれば、真に独特な芸術家の中で無思慮な人間は天才以外にいないのではないだろうか。というのも、彼らはどうすれば善い作品が生まれるかについて考えるからである。いや、私は思うままにつくっているなどという人間の作品はなにをおいても目に見える。それは一見妙なものでありえても、やはりどこかで見たものでしかない。今まで見たことのない作品は、科学者が深遠な理論を生み出すのと同じように、実際のところ頭の中でしか生まれないのである。実際に偉大な芸術家は確たる思想を持っていたし、或いは新しい思想を待ち望んだ。真理はひとつであるから、それでは独特と言えないのではないかという不安はもはやない。誰も芸術の理想、すなわち唯一の真理に至ることはないのだから。芸術家はただ、理想に近づくだけなのである。それだから私はわざと陳腐な表現でいうが、芸術家は頭が良くなければならない、思慮深くなければならないと思う。

20171014

本心

半端に冷えた夜明けのベッドで
うつ伏せの本が添って眠る
本の活字が浮き沈みを繰り返すので
文字がいくらかまともでない

文字を読むと雨に濡れた音が聞こえる
窓から洩れ入る風が沁みる
夜営の細胞が戯れにテストをするんだ
少しばかりの馬鹿の楽しみといって

数時間前の夢ならとっくに忘れてしまった
ノートの空白が私を映す
仄暗い微笑みがぎこちなく見える

さらけ出すのはいやだ!
互いのまなざしに言葉をかぶせ
傘をさすみたいに避けなくちゃいけない






20171011

appearance

この魂は風に吹かれてゆくのか?
そして どこへ?

秋空の吸う青緑色
水涸れて土に斃れる案山子
その目うつろに瞬いて
花の芳しき光ふる

骨身にうちぬ雨の音
水行きし手を浸したままの太陽
落ち葉を運ぶ虫たちが
鳥に喰われて飛んでゆく

あかき空に腕ひろげ
ふるき思い出は浮かびあがる
忘れられた朝の日が
乾いた涙の昇る音が

芽吹く必死の生命が
愛しき老婦の幽魂が





20171008

過ぎゆくもの

幾代の隙間にひとつだけ
不思議がポツとありました

眠れぬ夜に見た空に
月のまるく輝いて
それを照らしてありました

幾代の隙間にひとつだけ
今宵の道がありました

波行く背中を見た夜の
ひとり寂しさ乗り越えて
それを愛づるは己が道

ひとの瞳にそっくりの
白い灯りの薄き膜
まるく秘かに綿のよに
まぼろし包んで夢をみる

覚えて忘れるこの街の
鳥の見下ろす配電盤
あっちこっちの蛍光が
ひとの背中に息を吐く

幸と不幸のかたちして
ガイア過ぎゆく渡り鳥
日常の黒染みへ
この世を壮大にせる翼を広げ
飛び立ちてゆく












20171007

今宵雨はさんさん落ちて
足もとの腐虫を醒ます
島の見目煌めきて夜照らし
大洋の風は祟りを呼ぶ

雲居の父の厭離の記
雨の宣告
霜月さながらの寒さ殖えて
星の手は冷たく陰る

渡来の少年よ
鬼の蔓を鉄に絡ませ
雨の滴る刻を仕留めてみよ

相ぞ変わらぬ雨が来たと思う
誰もがそれと知って戸を開けた
誰も居ない夜の戸を

あれが人の心か
失われた一倫を待つ雨の
四肢の音が聞こえる















20171006

移行

秋に止まる蟻が
旧い季節を懐かしむ
コンクリートの肌が
旧い季節を夢に見る

さア!お前が恐怖心...でない......
彼らは求めるもの...でもない......
ヘンリー8世の冷たい瞼を
ひたすら愛撫する月夜

冷淡な魚を今に頂戴し
姿見を叩いて割り
破片へ問いかけるのに
なに一つ答えようとしないのです!

嗟!生きるか死ぬかの双頭が
己れの胃の中で泳いでいる
ウズ......ウズ(と).....這いまわって
まだお前は夢を見ないのですか

蟻が手の甲へ行き
ぼくを誘うようにお尻を向けて
地面に落ちました
きっとお前の能力の為に







20171002

十月の夜

雲衣を掛けた夜の月が
秒と分のわずかな隙間から
凛然と顕われるのを見た

わずかな時の流れが
そよ吹く夜風のなかに感じられ
身体へ伝わる
その感覚を心の声は捉え
沈黙:月の言葉を繰り返す

生きているわずかな間の真心が
私の声を潤せば
まちがいだらけの唇が
わずかに微笑みを
見せてくれた

それから 表情のすべてを
呑み込むような刹那の傷口が
荒ぶ生気を平らげていく
落ちてゆく月も
抱き上げた太陽も
それから 内緒の星々も