20170731

沈むように

深夜のベッド。開いた窓から道路を走る車の音が間隔をあけて、次第にそれも広がるように聞こえてくる。夜は静かだね。暗がりは冷えて無言。諸々の運動が聞こえなくなると自分の存在に気がつく。まだ眠ろうとするわけでもなく横たわると、見えるものが何であろうと無機質なものに思えてくる。傷つけたり癒されたりするのは私だけで、目の前の全てのカタチは沈黙するようだ。



20170729

形象

めいっぱい手の平広げて
触れる夜空の星たちよ
無窮の夢見は線描き
息吹の道筋明らめよ

まだここにある
枯れて燃えにし生命が
その魂を廻転させて
形を獲る夜更けだ
あゝ 戻ってきたんだ
馴染みの律動こそがその証拠
あゝ 生み出されたんだ
ぼくの手の平の衝動
掴みきれなかった滴が消えてゆく
この熱によって燃えゆく万物が
暗い影となって街を覆う
異臭漂うこの街を忘れてやるな
花火の届けた思い出と共に
夜空の下に照らしてやるのさ




20170722

蝉と影

軒並の合間から夏が溢れる
朝の青空は奥まで広がり
時間を充たすように蝉が鳴く
今年初めて聞いた声
期待膨らむ初心の肌
言葉連ねて季節を廻し
掃いた先には落葉山
流行る声音に我応えず
あゝ 冴えわたる空気
濃縮された夢と寝惚け眼
力強い光が遥か遠くに在るうち
拙い神経が「あいさつ」を
それを静かに伝える












自然の文

百年を越えてもなお書かれ続ける表現の場でありたい 誰がそうするわけでなく 幾万に連ねた文章が細々とひとりでにあらわれる 時を等しく隔て さながら朝夕の移り変わりが如き自然のいでたちで 無常の風土にあって言葉や環境は変わり この上に如何ほどの地層を蓄えようとも 私の 或いはお前の言葉よ 生き続けてほしい 殊に執着することなく私も ひたすら強く生きよう

20170720

流れる

のぞいた水面に映った私の過ぎ去りし時。過去を横切る今世の葉がきれいな色をして見えた。水中を鯉が泳ぎゆく。空気はゆらゆら揺れ、言葉を持たない手が水に浸されるまでは、止まったような時に触れる。音のない世界。水滴が指先から落ちて、はじめて聞こえる心の音。流れていった葉に名前はあっただろうか。流れていった時間を何と呼ぼう。消えかけた印象がまた形を整えて輝けば、手の平の水たまりに草葉がひとつ。ことなる風がよく吹けば、その輝きも都度に変わるよう。それが花火のように消えるとき、過ぎ去りしものよ、よく消えてゆけ。

20170718

夜の海

音の調が淡い光の中へ凝縮されて、ほとんどが暗い陰に変わってしまった。その光の中でヴァイオリンが独り鳴っているのに私はただ聴いているだけの人間だ。まるで水中の静寂が今夜を包んでいる。目を開けることへの恐れかただ肌に伝わる冷たい力を感じているだけの人間だ。息遣いもなしに弦楽器の響きが私を包んでいる。何処まで続くのだろう、この海は。何処まで深いのだろう、この心は。原初の形も最後のそれも知らぬままに、月となって私は漂ってゆく。

暑い日

車が通ると天井の光がまばらに流れる。しんしんと動く風が盛夏の蝉を起こすことはまだない。五月蝿いのは雷雨だけで、でも今日は大きな雲が来てないかと窓から空を見上げたとき、原色の陽射しに瞳を強く打たれた。排気ガスの臭い、砂埃、夏の太陽が青空の中でひどく微笑んでいた。濃厚な景色がやがてポスターの剥がれるみたいに失われると、かつて知った人の姿が脈絡なく目に浮かぶ。外に背を向けて入ってくる風を受けながら、私は積まれた本を数え始める。

20170714

私あなたのこと

あなたのことは知らないけれど
でもきっと格好良いわ
私あなたのこと知らないけれど
でもなんだか刺激的よ
感性をくすぐられるような
そんな気がするの
私あなたのこと知らないけれど
私あなたのおかげで
発想するのが楽しくって仕方ないの

20170710

たなびく声

ようやく人間関係という言葉の意味を取り戻して、この夏、夜風が吹けば、それは涼しい。人気のない道を呑気に歩いているのが心地よい。月も今や良く見える。日頃の話相手も特に居ない、親愛という言葉を使ってみれば何処か馬鹿げた結末を辿る、そうとて何気ない毎日が私のものとなれば、なんであれ愉しいものである。密な関係を築きあげるほどの力はないが、一期一会を大切にすることはできる。私の全ては短命ながらも、自然と伴に循環することを知っているのだから。

20170707

神妙な

夜雲の膜の薄明かりで月の寝床を知る。妙なる風の吹いて涼しい夜、 足音が何処からともなく聞こえる。はじける氷の音で水の量が増した。指先で机を叩けば虚しく音が鳴った。月が時折その姿を露わにし、非常なる記憶を喚び覚ます。覚醒の朝よろしく眩しき印象が心に映ったのも、やはり風のように消えてゆく。人もまた、昨日の盃を残して。

20170704

人の生きるはめぐりまわる地のように

私たちの生活はふだん何気なく通い

それでいて本当は偶然という名の雨が

私たちの命を削っている