20161231

千代の下帷

今宵は大晦の日
待ちに待った年の瀬
一戸瀬の究極地
求めに求めた愛の行方

月よ 月よ 月よ
年の夜の帳に隠れて
今宵は何をお読みになるのでしょう

きっと素敵な愛の行方
一人と知らぬ山頂の景色
指先ほどの鳥の声
一人と知らぬ生命の初息

月よ 月よ 月よ
年の夜の帳に隠れて
今宵は何を夢みるのでしょう

20161228

ただよう

わたしはだれなのだろう

たとえば わたしはピカソ
たとえば わたしはストラヴィンスキー
たとえば わたしはフローベール

わたしの身体はジョセフ・コーネルによって名付けられた
その名は ありもしない日々

きっと どこかおかしいんじゃない?

あなたは 博識の三ツ木

わたしは 広く 深い 海


20161226

ひと途瀬の空騒ぎが穏やかな風を寄越し 初空に響かせる声は何処の鳥だろう 嵐の後の静けさが新しい若芽と太陽の手合せを見守るならば わたしはそうっと遠回りをしてみよう 往来に心身を尽くした者よ 自ら風となった心地して 居場所を失くした者よ だれがお前たちを労わるだろう 大草原の夜空がこの日を真率に眠らせるならば 残り僅かな日々を繰り返し耐え 晦を迎え そして遂にその日が来たならば お前たちは生まれ変わった気がするだろう 与えられた生命に涙するだろう いまや今日の幸せを誰にも奪わせてはならぬ 年の夜こそ 迎えねばならぬ 朝陽を あの 胸に抱いた小さな希望と呼応する 大きな陽の光を

20161225

Tempest

寝惚け眼を閉じて
聞いた音は風のそれではなかったか
寝惚け眼を閉じて
入り込んだ風は夢のそれではなかったか

聞いたことがある
それは 夢に似た音楽
それは 夢に似た思想
寝覚めの包みが開くまで
戯れに言葉を吹き込んで
想像の焚き火を燃やし立てる
トナカイの走るその下で
秘やかに話す影の
大きな爪の魔女の如し
我ら両つの仲を裂いて
不思議で隠そうとする鎌鼬
煌めく去来が遺す声は
掬えば忽ち砂と知られる
夢の使者か
思考の戯れか
だれも分かりはしない
だれも......
意識と無意識の谷間の底は
タイタンさえも消してしまう
浅きゆえにそれと知られぬ心理がある



20161224

内なる再会

私がいなくなったとしたら
と 彼は言った
笑顔の絶えない人を探してください
と 彼は真率に言った

細めく内なる瞳が
と 笑顔の絶えない人は言った
こう語りかけるのです
と 笑顔の絶えない人は真率に言った

人間の心の奥から
と 細めく内なる瞳が言った
凡ゆる対象に興味を示す光りが届く
と 細めく内なる瞳が真率に言った

己の考えることは
と 笑顔の絶えない人は言った
誰もが考え得るのです
と 笑顔の絶えない人は真率に言った

それが誰であれ 心の真は同じでしょう
と彼は言った
笑顔の絶えない人はきっと 私なのです
と彼は真率に言った

そして 彼はいなくなった
私は笑顔の絶えない人を探した
最後に 彼は戻ってきた
私は彼に言った
わたしも 探究者です
と 私は真率に言った










20161223

不思議な日

薄紫の夜空に延びる
数知れぬ梢の線が
夜の闇を吸い取ったみたいに
真っ黒で
嵐の嘶きが枝を揺らすと
暗闇にひそむ泪が
トン と落ちてくる
岩絵具が砂時計のように
水たまりの中へ落ちていく
日だまりの格別の友なる寒雀が
異国の砂を探して翔び立った
その夜のこと
暖かい風の喨々たる声は鳴り続け
私はまるで太陽の夢のなか

20161222

安息

二〇十六年の光が照らす年の夜
甘くて 酸っぱい 重くて 軽い
生きづらい人生へ歎く人が
三十歳で逝く計画を立てた
声にして歎かざる此の世の運命を
彼の心は謳歌しようとしている
と きっと私だけが知っている

20161221

輪郭

澄んだ空気
わたしの目の前を 流れる 
年の梢の 晴々 
落ち葉がふわりと降りて 
わたしのおでこ 
薄れた心臓 
そして足もとへ透きとおって 
また ふわりと揺らいで 
それから白い水面に運ばれて 
静かな朝へ かえってゆく

雄鴨の引いた水のさかいの向こうに
きっと若水の白く柔らかい肌が
お日様の贈り物に笑みを浮かべて
うつり変わる景をながめている
茫っとしたわたしの
輪郭のない足もとを
落葉山の風が通り過ぎてゆく
冬はわたしにこう問いかける 
「君はまだ 眠らないのですか?」
わたしは頷いた

「どうして余白はあるのですか?」
子どもはわたしにこう問いかける
「わたしの声は聞こえますか?」
わたしは余白に問いかけた

20161218

一般的日常

ー 二人の会話

黒:真昼間から屋根の下、コンクリートの腕に抱かれて今日もお眼鏡のお勉強か。お前には大いなる地球の全てを見てほしいよ。少なくとも外の学生たちの朗らかで暢気な笑い聲をな。全てがまた無理だとしても、お前の勉学には狂気的な創像力が足りていない。それはつまり野望という野望が、世紀、世界を眺望し、孤高の存在となる野望が......

白:......

黒:お前が本当に欲しているのは夜。なぜならお前は夜更けにこそ創像的になり得るからだ。それゆれにまた限りなき想像力を、栄誉を、そして聳える峰の如き巨万の富を。最後に死を、それはシャットダウン、それは凡ゆるものに対する拒絶。それらをお前は欲している!

白:そんなことはあるまい。

黒:どんなことだ。欲していると言えよ。お前は見たはずだ。叔父さんのだらしなく口を開けたバッグからお前が栄光の小切手を盗み取った、さっぱりとした手口で、細々としたあらゆる良心を押し潰して。夢だった。夢を見た。鮮明な夢を!

白:夢に過ぎない。

黒:夢に苛まれろ。夢の解剖法が鏡を持ち出してきっとこういうんだ。「ご覧下さい、此れが貴方の心臓です。醜いですが、これが真実です。そう、これが真実。」夢だって現実的な現象だろ。自分の中に一度でもその存在を認めたものはなかなか消えはしない。そして狂気こそがお前の本当に欲していたものだと気づく。

白:夢や欲望、君の凡ゆる関心は私を決定付け得ない。

黒:ならばお前に病を呉れてやるよ。病に蝕まれるお前が、どれだけ死に向かって嘆かざるを得ないか、味わうがいい。所詮、お前も蛆虫に決定付けられる運命、即ちそれは、屍だ!

白:君らしい。自ずから答えは分かっている。

ー 白、死に至る病を患う。

黒:忍耐で己の魂を鼓舞してきたのだろう。どうだ、嘆け、叫べ、楽になれ!

白:死であろうと、私を決定づけるものではない。

白と黒:お前は私<俺>なくして価値はない。

白:せいぜいお前は私の従者なのだ。お前が大きければ大きいほどに、不思議なことに私の価値の方がより高まるもの。

黒:小賢しい!俺はお前に価値など認めない。俺の価値は常に力だ、権力だ!このひと突きで分からせてやる。

白:お前が如何に思おうが、既に決まっていること。そしてお前の価値観ですらそれに抗うことはできない。これを戦いだと見なすなら、つまり、お前の負けなのだ。

黒:失せろ!

ー 白、死す。

黒:ザマァねぇな。蛆虫に喰われてな!ま、花くらいはお供えしといてやるか…ん、いや…ちがう……花なんていらないな、蛆虫に喰われて、烏の泣き所になってりゃあいいんだ。花なんて置かなくていいよな。俺というやつはどうしてそんなこと考えてんだ!…え……「夜は朝となる。月は沈み、陽は昇る。この世界の調和は不思議なものだ。」…誰だ…ふざけるな。「お前が此処に居たがるなら、私が滅却されることはない。お前の主人に大いなる感謝を捧げよ。」…ふざけるな……

ー 黒、死す。



20161216

コンテンポラリー

私の影となってしまった愛しの多様性
豊穣なる邪馬のうねりを実直に貫く己が心
この上ない言葉は探したとて見つからず
ただ陽の昇るように 私の心に浮きあがる 
愛おしき者どもが純粋な眼を輝かせるに違いない
大和の地に立つ花々が心おきなく枯れるのは
果たして恥らいなきゆえか 

太陽の意味は表現である
表現への恥らいは藝術を歪ませる
お前の爆発は 馬がった木の枝に過ぎない
何も知らず 何も知らされず
馬がってしまう木の枝が この世に流行って 
我がものづらして自然(あるがまま)をうたうのを
人はコンテンポラリーと呼ぶのか

20161209

こだます ことだま ときめき とよむ唄声 雲を千切る伊吹の あまつまのまなこ 木管の声途絶え ブリキ製の玩具の もはや影から逃げられぬさだめ

わたしのおかれしさまは まるで渾沌のプリンス 外では葬式行進曲が鳴っているか それすら分からぬありさまよ はこんでいるのか はこばれているのか ただ砂糖のように甘い香りだけが ここをお花畑と呼んでいる

ひめさまの 秘めた想いは お墓を飾る仮面のなかに とびだす想いは 白装束をキャンバスに だってあなた 白は始まりよ

プリンスの 真っ暗闇にこだます ブリキのフルート とおく聞こえる 小鳥のしあわせ かつておまえはおのれに仕える影であった その独白が天井へ届くとき 降りてくるものは 返ってくるものは あゝ あれは......

あはれ 古めかしい幕が 閉じていく!
大きな影が彼を呑み込んでいく 彼の声が途絶えていく 戻ることはないと 時がさだめを許してしまった! 色彩豊かな緞帳 色褪せてしまう花 枯れてしまった想いは燃え失せてしまった 「わたしの描いたものはなに? あゝ 永遠よ わたしがこの世のなかでみたいものを描きました 花はどうして枯れてしまうのでしょう 物はどうして捨てられるのでしょう! 永遠よ 永遠よ 遠けき愛よ 万物無常の働きがわたしの声をからしてしまう......」

20161202

冬の空

そこは都会の屋根裏部屋
満天の夜空を見降ろす此の世の贅沢
そこで静かに交わされる言葉は
紅葉さながら落ちていくことなく
それは重力とは凡そ無関係に
モルゲンタウの星漢を過ぎ
心へ還って逝く
天文学的距離に隔てられても
私たちは自然に挨拶を交わすことができる
言葉は私たちの心へ還って逝く
私たちがその言葉の名を知らないにせよ
それは私たちの言葉なのであった
今宵の流星が街を帆走ってから
時が私たちを迎えに来た
それは幾万年後のことで
モダンを漂う無量の感情が
心のなかへ落ちて逝った
聖鑑の水鏡ですら不可視のそのなかへ
静閑なる灼熱が万物を歪ませ
生と死が奇蹟を結ぶそのなかへ
生還した何物もない
死別した何物もない
不滅なるものよ!
此処にぞあると
どうして黙ったままなのだろうか


季節のめぐりにみな
忘れてしまったものはないか  と
木枯らしが弓を鳴らし
冬支度の日々が淡々と飛び跳ねて
町の女の子が家の玄関に鍵を差し込む
鳥のさえずりが聞こえる
山眠る その深きから