ひとつひとつと花が芽生える。そのような嬉しいできごとがこの冬を今にもはじめようという。雨風のつらさこそあれ、炭火の静かな香りを手のひらにいだいて眠る夜はいくだんと心落ち着いて、あの頃の自分が夢のなかを裸ひとつで駆けめぐる。さあ、わたしもはじめよう。冬を。目覚めた朝のわたしの耳もとにのこる声がさながら氷柱のように時をとめる。とくもの、こえるもの、みな冬のかがやきの鎖状構造をかたちづくり、時が過ぎれば春が来る、春来たれば雪どけて、待つ声の向かう先遠く、渡鳥は山を越え、冬を越えれば鶯の鳴く、はつねは子等の陽のもとの声にとけこんで、遥々と帰鳥のすがたをそらにみる。季節のめぐりと共に顕れる言葉がつねづね新しく聞こえるのを思えば、来年も万事はかりがたく、今し此の方の嬉しさもまたいずこのものかは知られる。気持ちの包みは春までふくらむが、此の目はつかの間に咲く花をことごとく見眺める。さあ、わたしもはじめよう。冬を。眠りに伏した心のなかで夜という夜を貪り食う。
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