20171130

秋の晦につき

不可視の大人が消したがる経験
消せないインクの総量の深さ
ここに滴り落ちる敢えなき時間

混雑な人間たちと軽やかな街灯
一夜と恋人の旧き模像
秋はショコラになりたがった

自己不信の苔が蔓延る矛盾の湿地
エラー画面に映る自分の顔
紅潮する頬と部屋の温度
漠然とした幾らかの詩篇

私はもっと欲しがった
貪ること
甘えること
その理由がそれ以上にあるからだ








20171126

Abstraktion 1

いろんなことに興味がある、知りたいこと、体験したいこと、それがあまりにも多いので、どうかすると生きるのもひどくつらい。サヴァンのメモリーが翻弄するのに似ている。情報過多なる現代に生き、現にあるものをすべて貪り食べる野生児の運命。考えかたひとつで喜びにあふれるものがいつしかすべてをかっさらってゆく。流れる星を数えて指の不足を馬鹿馬鹿しく嘆いている、そんな人間。



私はひとつの抜けみちを知っていた
Abstraktion

包丁で切った小さな傷も
あなたの放ったひと言も
真実の大量のコーパスも
Abstraktion

今夜此処での一と殷盛りも
夢と共に消えてゆく
消えない線をまた残して
そこから日の昇るように

20171123

わずかな太陽

ひとつひとつと花が芽生える。そのような嬉しいできごとがこの冬を今にもはじめようという。雨風のつらさこそあれ、炭火の静かな香りを手のひらにいだいて眠る夜はいくだんと心落ち着いて、あの頃の自分が夢のなかを裸ひとつで駆けめぐる。さあ、わたしもはじめよう。冬を。目覚めた朝のわたしの耳もとにのこる声がさながら氷柱のように時をとめる。とくもの、こえるもの、みな冬のかがやきの鎖状構造をかたちづくり、時が過ぎれば春が来る、春来たれば雪どけて、待つ声の向かう先遠く、渡鳥は山を越え、冬を越えれば鶯の鳴く、はつねは子等の陽のもとの声にとけこんで、遥々と帰鳥のすがたをそらにみる。季節のめぐりと共に顕れる言葉がつねづね新しく聞こえるのを思えば、来年も万事はかりがたく、今し此の方の嬉しさもまたいずこのものかは知られる。気持ちの包みは春までふくらむが、此の目はつかの間に咲く花をことごとく見眺める。さあ、わたしもはじめよう。冬を。眠りに伏した心のなかで夜という夜を貪り食う。

20171120

冬めく思い

ふしめの月の山枕
すみやかにすさぶ風
萬の夜を研いで晩秋

くれなゐは身かぎり尽くした
矢のごとく往く時を追いつ
やぶるゝ腕を脚をそのかたちを
ひとへに愛づ

燦々たる日照りに
燃え苛だつ鯉の背中
あれは然もことなる心とぞ
思いに浮かぶ花火の跡

わかれた枝の先々の思い
届かぬもの届くもの
みな冬めいて星と光る



20171109

無常の心根

モノが同じ言語で話している
目があったとして私は挨拶する

あれは今年の二月だった
インク壺から流れる過去

それと同じ瞳の色
つぶらな星のかがやきを見る

モノが同じ言語で話している
暗くて何も見えないランゲージ

それはガラスの向こうの彼女だ
まちさかりのみちを闊歩して往く
もみじがキャンバスを埋める

夜長のあくびが風を吹かし
月の懐深しとわかる
それと同じ心の底
夜更けのオレンジがしみわたる









20171102

秋の図書

ゆめみるおまへの その白ろい頬
風  あつい季節をかゝえた風が
ほわほあと 水面の口のなかへ入いる
木の葉がたちまちいろを変えがえ
あおいそらが焼かれる紙のやふに燃え
おまへの頬にうつりする
そしらぬたがひの恋のやふに

それはゆるやかに宵闇をこしらえ
まちの夢想ひをかたちづくるのだ
置かれ ならんだ本のよろこび
いづれむなしう思ふめくるめく耀き
そこでおまへは遵ふことを忘れ
ただそれだけのために本を
ひとつ 本をめくるのだ