20160615

渓谷の憧れ

大自然の中では、人間はちっぽけに見える。だけどそれは、遠慮の為の細かさではない。半袖から露出した色白の腕に逞しさがある。それは女性よりも、美青年のそれを思わせる。片方の手で双眼鏡を用意しているが、彼女の鋭い目付きはそれを必要としなかった。目を細め、遠くの景色を伺う姿は冒険家さながらである。取り出したランタンを憩いの岩場に置いて腰を下ろす、落ち着いた一息が溶け込むように流れていく。目の前を悠々と走る川は広い。入道雲を拵え、ミモザの黄花が咲く木の下で、スカイブルーのワンピースを着て恋人に微笑んだ、そんな思い出が過ぎることもあった。記憶は焚火の灰塵に埋めて、それが芽生える時を待つ。彼女はこの渓谷から、何処へ向かうのだろう、大自然を描きながら、何を求めて歩くのだろう。

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